2.4 心の発達と人間の個性

2.4.1 心の発達に関心がもたれるワケ

人間は、誕生以前から時間を追って身体が大きくなり、心のありようも変化する。受精直後の胎芽期には、その形態は他の動物と見分けがつかないが、誕生直前には人間の赤ちゃんらしい体形になり、羊水飲みや指シャブリの活動を示す。また、誕生後しばらくは、心身の性能が充分育っておらず、赤ちゃんは外界の変化に無力である。

しかし、赤ちゃんは、誕生直後から母親のお乳の匂い、声、表情に反応でき、彼らの心はかなり早くから芽生えているようである。さらに、身体の仕組みと活動能力が成長すると、赤ちゃんの心の理解が外目にもいくぶん可能になってくる。身体のバランスも年齢を追って4頭身から5、6、7頭身と成人の体つきに近づき、12歳ごろには8頭身になる。

生産性の低かった中世時代には、この体つきだけで児童期をおとなのミニチュアと考え、過酷な労働に従事させる子ども受難の時代もあった。しかし、個人の尊厳を重んじる近代教育思想の台頭により、子ども特有の心の在り方や行動の特性に関心が向けられるようになり、子どもとおとなの心身の同質性よりも両者間の異質性が探究されるようになったのである。これには、児童心理学が大きな役割を果たした。他方で、生産性が向上し、生活が豊かになった現代では、老いることの解明に関心が向けられるようになり、生涯にわたる心の変化性が問われるようになってきた。そして、児童心理学や青年心理学だけでなく、生涯を通しての心の変化を研究する発達心理学に強い関心がもたれるようになった。

 

2.4.2 心の発達の秩序

心身の形態や機能の変化を量的な増大として捉えることを「成長」と呼んでいる。一方、環境との関わりの中で、より深い内界とより広い外界を獲得する際、展開的・形成的に秩序づけられ、系統づけられる変化過程を「発達」と呼んで、「成長」と「発達」を区別している。とくに、心の発達を捉える際には、ある時点の心の状態が、前時点の状態からどのように発生し、次の時点の状態にどのように変化していくかの様相に焦点が当てられる。このことは、心の発達が節目なく変化するようにみえながら、時間軸の中で以前と質的に異なった状態の節目があることを意味している。

すなわち、発達の節目には、次のような秩序がみられる。その一つが、発達の方向性である。心の発達には、ある時点の状態から次の時点に変化する際、前の状態を含めながら次の状態を作り直し、心をより安定した状態にする構造化の過程がある。この構造化の過程は、心を支えるいろいろな働きが分化する過程と、多様に分化した働きをまとめていく統合過程の二つを含んでいる。発達は、この構造化を繰り返しながら、人間が環境に適応していく過程なのである。

たとえば、赤ちゃんは、外からの働きかけに全身で反応するが、それがどういう心の状態を示しているのかを理解するのはかなり難しい。一方、おとなは外からの働きかけの意味を理解し、それに対して快とか不快といった、さまざまな反応を示すことが可能である。つまり、赤ちゃんの場合、心の働きが未分化なために全身的な反応として表出されるが、おとなは、外からの働きかけによって起きる多様な内面的反応を統合し、条件に合わせて合理的に反応することができる。

このように、外界からの働きかけに対する、年齢に応じた反応の仕方の違いは、外界を内面化する過程の高度化の表れで、これが心の発達の第2の秩序である。たとえば、年少の子どもほど目の前にある状況や具体的な欲求に囚われがちだが、おとなになるに従って、そのような束縛から脱し、事物や事態をコトバによって記号化し、複雑な世界を象徴化して理解でき、外界に対し間接的な反応をすることができるようになる。言い換えると、「今ここにある」事象のみ扱う段階から、「今ここにないもの」を表象し、概念としてのコトバで代表できる段階へ進む心の発達がみられる。この内面化の過程が、人間の心の働きの特徴である論理的思考を可能にするのである。

心の仕組みや働きが複雑になることは、本能に縛られることなく、状況変化にきわめて柔軟で、融通性に富む適応ができることを意味している。これが人間の心の働きの特徴とされる可塑性であり、その働きが安定した客観的世界の認識を可能にするのである。

 

2.4.3 心の発達を左右する要因

心の発達がどのような要因により左右されるかについて、昔から「氏か育ちか」が問題になってきた。これは、発達が生得的なものか、経験によるものかの問題であり、「遺伝か、環境か」という問題に繋がっている。最近の遺伝学や行動生態学の知見からは、心の発達をこのような二者択一的に考えるのは正しくないと言われている。すなわち、心の発達がある程度の期間を経て捉えられる問題であり、遺伝と環境の両方に規定されると考えるのが妥当である。

遺伝と環境の要因は、パーソナリティや能力差を生み出す規定因とされるが、発達的変化の中でこれらの要因がどのような役割を担うのかについても、現在のところ充分には明らかになっていない。心の発達における遺伝と環境の問題は、成熟と学習という形で再提起されたことがある。アメリカの小児科学者ゲゼルの研究は、一卵性双生児を対象に一方の子どもには早期訓練をする条件、他方の子どもには訓練をしない条件を与え、一定期間の後にテストしたところ、両者の成績に差がみられず、発達の規定因として成熟要因に軍配が上がったようにみえたのである。しかし、訓練はある期間の成熟を待って初めて効果をもつということから、この成熟優位説は現在のところ後退している。

他方、経験が発達に及ぼす影響は、教育や臨床領域において注目されている。そのなかでもよく知られているのは、精神分析学者のフロイトの理論である。この理論では、乳幼児期の体験がいわゆるトラウマ(心的外傷)という形で、後の青年期や成人期の人格を規定する要因として働くと主張されている。しかし、この理論は、臨床事例に基づく解釈であり、客観性がないという批判もある。

しかし、後に述べるように、動物や人間の異常行動の発生が、劣悪な養育環境下で育つ脳のストレス脆弱性によるという最近の研究や、ある種の経験が発達のある時期にしか効果をもたないとする臨界期の研究から、初期経験が後のパーソナリティの発達に影響するという精神分析学のアイデアも、理論の内容はともあれ、捨てがたいものである。

 

2.4.4 発達を支える生物学的知見と脳神経基盤

発達という概念は、もともと生物学で使われ始めた概念である。20世紀の初頭「生活体の行為の実証科学」という心理学が台頭してきて以後、動物を対象とした行動研究が盛んになり、行動特性に関する「遺伝か、環境か」の対立論争が盛んになった。しかし、この論争そのものに意味がないということから、素質と環境の相互作用という発達理論が中核を占めるようになってきた。

その背景には、比較行動学者が動物の行動を自然な環境の中で正しく捉え、実験室で統制条件の下で補足的観察を確かめた研究の成果がある。たとえば、鶏や水鳥のヒナが、孵化後すぐに親鳥の後を追うのは、親鳥でなくてもよく、一定の大きさの一定の速度で動く物体であれば、何にでも後追いするようになる。この行動は刻印づけと言われている。刻印づけが永続的効果をもつには、誕生後の一定時間内に限って生じることが前提となるが、このような期間を臨界期と呼んでいる。

刻印づけの臨界期と持続的効果は、哺乳動物でも認められている。また、高等な哺乳類の場合、誕生直後から独立歩行ができるのであるが、人間はそうなるまでに1年を要する。その間、人間の赤ちゃんは、ネズミなど下等哺乳類と同じように巣立ちの遅い就巣性の状態にあり、母親の保護を受けることになる。このことから、高等哺乳類である人間の赤ちゃんは、生理的早産の状態で生まれると言われている。

人間は生理的早産であるにもかかわらず、100億以上と言われる脳細胞の数が、母親の胎内ですでにでき上がっている。また、おとなの脳の重さは体重の5%だが、出生時には体重の13%で、身体の大きさに比べ異常に大きい。そして、生後6ヶ月になるとおとなの二分の一に、2歳でおとなの四分の三と、かなりの速さでおとなの脳の大きさに近づいていく。

さらに、約1.8リットルの頭骸骨に収まるおとなの脳になるのは、細胞と細胞を繋ぐ神経連絡路(シナプス)の数が増えていくからである。ただ、シナプスの数の変化も、生後2から3か月で急に増え8か月で最大となるが、その後急速にシナプスの数が減少する。それは、使われる神経連絡路だけが残り、使われなくなった連絡路が退化するからである。これを神経連絡路の刈込み現象と呼んでいる。

この刈込みが起こる時期は、子どもが歩行できて離巣性の状態が始まる時期とほぼ並行している。とくに、歩行ができる頃から人間の心が飛躍的な発達を示すようになるのは、外界との接触が増すことで、脳の神経基盤とその働きが急激に変化することと密接に関係しているからだと考えられる。

 

2.4.5 人間らしさを示す言語の働き

動物の系統発生の上で、人間が最上位の位置を占めているのは、直立二足歩行、手の自由な使用、複雑な脳の構造にもとづいてその機能が他の動物に比べ格段に高性能となった脳の異常発達、そして言語の使用の四つの特性をもつからである。

二足歩行ができることで、手を自由に使って道具の巧みな使用や道具の作成ができるようになり、人間独特の文化生活を営むようになれた。さらに、物の運搬手段であった口さえも他の目的に使えることで、コミュニケーションに話し言葉が使用できる条件も整ったのである。このような人間の進化は、外界に関する認識の在り方も他の動物との違いをもたらした。とくに、人間の外界への働きかけは、知的好奇心による積極的な活動を通して、外界の構造化、記号化、客観化という形で内界への深化を促し、その結果、自分の住む社会的・対人的世界への適応過程が可能になり、人間を独特の生物学的存在にしたのである。

人間の言語の発達過程は、動物のそれとは根本的に異なっている。聴覚による話し言葉により習得したことを、やがて視覚を中心とする書き言葉に移しかえるということは、他の動物では不可能である。また、九官鳥やオウムのように人間の発声をまねることはできても、それを交信の手段に使うことが不可能である。音声を用いるかぎりにおいては、どのように優秀な類人猿でも、人間の子ども以上に自らの語彙を増し、複雑な文章化ができるようにはならないのである。それは、言語の働きと認知過程を司る大脳皮質の働きの分化と統合が、人間固有のものだからである。

子どもの言語発達をみると、言語理解が発語より早く成立する。人間の子どもと一緒に育てられた子どものチンパンジーが、発語以前の言語理解では人間の子どもをしのぐこともあるが、子どもがチンパンジーをしのぐようになるのは、認知過程の発達の結果である。さらに、人間の言葉の根底には、文法という一定の秩序があることが知られている。この文法が、学習により習得されたものか、生得的なものかは論議がある。

近い将来、現代の科学技術は、人間の言語と同じ位の性能をもつ翻訳機やおしゃべりロボットを世に送り出すことも可能であろう。その際、文法の生得説のように、核となる文法がどの言語でも共通で、見かけ上の文法の違いが使用する言語世界の中で変形するのであるならば、文法の核になる規則をオペレーティングシステム(OS)とした、世界中の言語を変幻自在に操れる翻訳機械の登場も夢ではないであろう。

しかし、人間にとって言語が重要なのは、それが思考に定着し、言葉で考え、言葉を認知行動の媒介役とするからである。言語と思考は、その発生の根源と発達過程が一定の時期までは別々のもので、発達のある時点でそれらが交差し、相互に発達を補い合うと考えられている。すなわち、言語は、社会的存在でかつ個人の認知・思考と別の存在であるとする。言語と認知・思考が相互作用する発達段階に達してはじめて人間は社会的存在になり、言語が思考を調整する働きを担うようになる。

この点からすると、言語を操れる機器が開発されても、その機器が自ら思考する性能を持つほどになるのは、当分先のことのように思われる。しかし、人間がいかなる生物学的存在なのかを考える上では、人間のために資する機器を開発する科学技術の発展が、人間にどのような意義をもたらすことなのかを論議する時代が、近々のうちに到来するであろう。

 

2.4.6 現代社会と心の発達

今日の脳科学は、心の発達の解明に大きく貢献している。物理的・社会的ストレスが多い現代社会における脳の発達にもたらす陰の問題を切り出したのも、脳科学である。たとえば、乳児期にうつやヒステリック症状の激しい母親に育てられた子どもの脳では、ストレス抑制ホルモンを分泌する脳部位の萎縮のみならず遺伝子にまで影響することが動物実験で明らかになってきた。このことは、ストレスに脆弱な脳をもつ子どもたちが成長するに伴い、母親と同じような心理的問題を遺伝的に受け継ぐ可能性を示唆している。

このように、発達の早期に重篤な外傷体験から脳内に放出されるストレス・ホルモンが、それを緩和する脳機能の発達を低下させる報告は、年少児期からストレスに脆弱な神経基盤が脳につくられる可能性を意味している。したがって、ストレスに脆弱な神経基盤があると、人生のどの段階でもうつや「キレる」などの症状が生じる可能性が高いことが予想される。少子化が言われる現代社会であるが、将来を担う子どもたちの心の発達に焦点を当てると、ストレスのない養育環境、とくに養育者の心の在り方を考える上で、人間科学と科学技術の知見を融合した解決方法を見つけることも重要になってくるであろう。

科学技術が人間生活のあらゆる環境を過度に利便化することは、心の発達に負の影響をもたらすことがある。この点は、科学技術の利便性がもたらす心の発達障害として見過ごせない問題である。現代人は、種々の科学技術に取り囲まれた利便性を優先する環境の中で生活している。そのため人間にとって最適な成長リズムが狂うこともある。それは丁度、夜でも電灯を当てて日照時間を多くして成長を速める電照菊の栽培のような状態に似た状態である。

昼夜の別なく照射される視聴覚刺激の中で育つ現代人は、初潮の低年齢化や身体の成長速度の加速など、一世代前の成長スピードを凌駕するほど速まっている。この現象を「発達加速現象」と呼んでいる。古い時代には、元服などの通過儀礼により成人としての社会的認知がなされていたが、現代社会では、身体の発達が成人を超える状態に達しても、社会生活を送る能力や社会的地位を得ることができず、一人前の社会人としては扱われないのが一般的である。

そのため、思春期になると社会生活への不適応を起こし、反社会的行動や触犯などの非行に走る危険性を高めている。とくに、性的成熟が早まった女性が、低年齢で妊娠するティーン・エイジ母親の問題は、子育ての心理的準備や養育知識の欠落により、嬰児虐待や育児放棄などの社会問題となっている。この傾向が小学生にまで及んでいる現状は、現代の家族崩壊とも密接に関係しているので、一概に科学技術にその責任を問うことはできないかもしれない。

しかし、現代社会の心身の発達加速による精神生活の不適応問題は、単に個人的な問題として片づけることができない。それは、科学技術の発展による急激な環境変化がもたらした、現代社会の心の発達への負の影響という側面と考えられるからである。その意味で、科学技術の発達と心の発達との調和をどのような形でとればよいかは、現代の科学技術が背負っている解決すべき課題である。逆に、科学技術の発展が精神生活に及ぼす負の影響を改善するために、人間科学が科学技術分野でどのような役割を果たすべきかを、人間科学的視点で考えなければならない。

心の発達は、単に能力の向上の側面だけでなく、それを踏まえた世代を超える価値の向上の側面がある。すなわち、高齢化社会は負の意味で機能するというのでなく、価値の向上という側面から人間社会における心の発達に貢献するという発想の転換も必要である。この価値の向上を後の世代が受継ぐ方策は、発達科学が解決すべき課題であろう。子孫に伝えるべき価値の向上を考えてこそ、これからの科学技術が人間社会の繁栄に貢献しうるのである。

 

2.4.7 脳科学が解明する人の社会化とパーソナリティ形成

社会化やパーソナリティ形成の問題が、一般の関心事となりやすいのは、パーソナリティ形成に幼児期体験が影響を与えるという精神分析学の考え方が広まったことにある。また、社会化という問題に焦点が当たるのは、青年や成人の不適応の問題が現代社会の大きな問題となっているからである。

とくに、人生の各段階には解決すべき葛藤課題があり、それらを漸次解決することによって社会の一員としての自己(アイデンティティ)が形成されるという考え方が、パーソナリティの発達理論として一般に受入れられている。すなわち、社会化の過程は、生涯にわたるいくつかの危機の節目を含んでおり、人間はこの節目を通して現実社会の価値体系や行動様式を獲得するのである。

発達的観点からみると、社会化と関わる心の発達に関する内容は、時代状況に大きく左右されている。たとえば、母子分離がパーソナリティ形成に与える影響についてみると、第2次世界大戦直後には、孤児院で画一的保育により育てられる子どものパーソナリティ形成の歪みが問題とされた。しかし、養育の知識の欠落した母親や精神的に未成熟な若年母親が多くなった現代社会においては、うつ状態の母親による劣悪な養育環境が子どものパーソナリティ形成に影響するという形で検討がなされている。前者は、物理的環境と人的環境の改善を重要視したのに対し、後者は、養育者自身の心の在り方が乳幼児の愛着行動に影響することに焦点を当てている。

愛着行動とか母子の絆の形成については、先にも述べたように脳の発達との関係から研究されるようになってきた。とくに、脳内物質を分泌する脳基盤やその遺伝子の在り方が養育環境の影響を受けるという脳科学的知見は、劣悪な養育環境で生じる子どもの心の障害に対して、科学技術的支援が可能であるとの期待を抱かせる。ただ、心の障害の治療やパーソナリティの変容などは、自然界に生きる社会的存在としての人間本来の在り方から考えると、科学技術に頼る以前に社会全体で考えるべき事柄であろう。

 

2.4.8 科学技術が変える発達障害の概念

発達障害とは、脳の中の僅かな傷や成長の遅れが早期に生じたために、日常の生活環境への知的・情緒的な適応がうまくいかない状態を言う。これまで、心身に発達障害をもつ人たちは、健常な働きへの回復が困難だとして、特別な扱いや過剰な保護の対象とされていた。

しかし、情報機器を中心とする、近年の科学技術の発展は、障害をもつ人たちが適応を改善する上で大きな役割を果たすようになった。さまざまな心身機能の代替を可能にするのが支援技術であり、それが心身の障害を補償する各種の手段を提供することにより、障害者が健常者と同等もしくはそれに近い生活適応を達成できる時代が、まもなくやってくるであろう。

たとえば、身体障害の補償技術だけでなく、心の障害をもつ人たちが知的機能やコミュニケーション機能の代替技術を使うことにより、健常者と変わらないコミュニケーション生活を送ることができるようになってきた。すなわち、これまで不可能だった心の働きの表現や伝達が、支援技術を通して可能になりつつある。将来的には、人間のさまざまな心の働きを代替する科学技術によって、心身障害という概念それ自体が変わると期待される。その意味で、科学技術の進展が、障害の垣根を低くする上で重要な役割を果たすことは確かである。

また、認知症や脳損傷に伴う心の障害の治療や支援は、現代社会にとって急務である。老人ばかりでなく若年期でも認知症は発症し、その原因は、脳細胞を取巻く細胞繊維の異常発達が、脳細胞の働きを止めることにあると言われている。さらに、近年では、出産性脳外傷による脳性マヒや知的障害をもつ人たちの生存確率が高くなっている。これらの人たちのケアや行動支援に支援技術が大きな役割を担っている。

このように、科学技術は、心の発達科学との連携を密にしながら、多様な心の障害をもつ人が、何処でも、どんなやり方でも容易に利用できる(ユビキタス)支援技術社会の構築をめざす必要がある(各種の障害支援技術ツールの例のコラム1参照)。

 

【コラム1】各種の障害支援技術ツールの例

①②音声でコミュニケーションができない人のための音声出力装置。①重量275 g:キーの数を1、2、4、8、16個と変更でき、各キーに最長2分までメッセージを録音できる。②重量900 g:ひらがな50音配列のキーを持ち、入力した文字を読み上げてくれる。③音声でも文字でもコミュニケーションできない人のための指点字式通信端末。両手に端末機を持ちキーを指で押すと、信号を受信した相手の端末機の同じキーが連動して動く装置。④ポケットPCをベースにした高次脳機能障害者向けの就労支援システム。作業の手順の確認は、文字や画像、音声を利用してでき、また、スケジュール管理は時刻の表示だけでなく、視覚的にわかるようにバーを使って残り時間を知らせることができる。